眼科便り

サギングアイ症候群(Sagging Eye Syndrome、SES)

2024年10月4日

サギングアイ症候群は眼窩プリー(外直筋-上直筋バンド)の加齢性破綻による後天性の斜視疾患です。

#眼窩プリー:眼球赤道部後方にある一群の眼球支持組織

#バンド:眼窩プリーの一部で、各直筋プリーを固定するコラーゲンの繊維

特徴
• 年代
:中高年
*成人発症の内斜視で一番多く、やや女性に多い
• 症状
:徐々に悪化する遠見複視、上下複視、回旋複視
  • 眼球運動は正常
  • 運転時、外出時の遠見複視が顕著

#この場合の複視は、ある1つのものを見たとき、片眼だと1つに見えるが両眼で見ると2つに見えること(両眼複視)

• 顔貌
:Sagging like face
*上眼瞼陥凹、腱膜性眼瞼下垂、下眼瞼脂肪突出
• 小角度斜視
:斜視の角度は小さい
  • 開散麻痺様内斜視、微小角上下斜視、眼球運動正常
  • 斜視角度は小さいが自覚症状は強い

#開散麻痺様内斜視:遠方のものを見たとき、左右の眼の視線が十分に開かず、内斜視の状態になること

• 脳障害は除外
治療
• プリズムメガネ
:複視を矯正
  • プリズムレンズ、膜プリズムの2種
• 片眼遮蔽
:非優位眼をテープなどで遮蔽状態にする
  • オクルーダーレンズ、spot patch
• 希望により手術
:症状軽減を目的
  • 加齢性変化で徐々に悪化する
  • 手術しても治りにくく、再手術の可能性あり

運転時センターラインが2本に見える、テレビを見ていて顔が2つに見えるなどの症状があったらご相談ください。

抗VEGF療法

2024年9月20日

抗VEGF療法 <第一世代と第二世代について>
AMD、DME、RVO(CME)、近視性CNV などの治療は抗VEGF療法が主流ですが4~5年前より新しい抗VEGF剤(ベオビュー、バビースモ、アイリーア(8㎎)、ラニビズマブBS)が登場しました。これらを第二世代抗VEGF剤、それ以前のアイリーア(2㎎)、ルセンティスを第一世代抗VEGF剤と呼んでいます。

AMD:加齢黄斑変性 DME:糖尿病黄斑浮腫 RVO:網膜静脈閉塞症
CME:嚢胞様黄斑浮腫 CNV:脈絡膜新生血管  

[適応]

第一世代 第二世代
ルセンティス アイリーア(2mg) ベオビュ バビースモ アイリーア(8mg) ラニビズマブBS
AMD
DME
RVO-CME    
近視性CNV      
作用部位 VEGF-A VEGF-A
VEGF-B
PLGF
VEGF-A
(力価ルセンティスの25倍)
VEGF-A
Ang-2
VEGF-A
VEGF-B
PLGF
VEGF-A

[第二世代の特徴(メリット)]

  • 第一世代で効果が減弱したり効果がない時、第2世代を使用することで効果がでる場合がある
  • 投与間隔を延長できる場合がある
  メリット デメリット
ベオビュー 分子量が小さい(力価が大きい ※1) 眼内炎  ※2
高価
バビースモ DME、RVO-CMEなどにより効果が期待できる 高価
アイリーア
(8mg)
アイリーア(2㎎)の4倍だが、
副作用は2㎎と同等
ラニビズマブBS ルセンティスと同等の効果
薬代が安い
 

※1 ルセンティスの25倍
※2 主にAMDの時、DMEの発症は少ない
   早期発見、ステロイドテノン嚢下注射、ステロイド
   点眼などの治療により多くは問題なく治る

[投与法]

  導入期(1/1M) 維持
RVO-CME 状態により
4~6週間隔で1~5回
PRN
AMD T&E
DME PRN
  • 状態によって
    変えることもあります。

維持期には

第一世代+ラニビズマブBS は 4 週以上

第二世代は       8 週以上

間隔を開けて投与する

TAE:Treat And Extend

(投与間隔を二週間延長し、治療を行い滲出が再燃すれば投与間隔を二週間短縮し、治療を行う)

PRN:Prorenata

(1~2ヶ月毎に来院していただき症状増悪時に投与を追加)

眼圧の測定方法と緑内障について

2024年8月6日

緑内障は「眼圧」が高いためにおこる疾患ですが、個々人の測定値としての「眼圧」を考えると

①眼圧は高いが緑内障ではなく、治療も必要ない人がいる
 例[眼圧22mmHgだが緑内障ではなく、治療の必要はない]
②眼圧は低いが緑内障で、治療が必要な人がいる
 例[眼圧15mmHgだが緑内障(正常眼圧緑内障)で治療が必要]

の2つは注意すべきことです。特に日本では開放隅角緑内障のうちの正常眼圧緑内障(眼圧≦ 20mHg )の方が多いので注意が必要です。
また、眼圧は多くの事に影響を受けますし、1日の中でも変化があります。
その方個人にとって、自身の眼圧測定値が高いのか適切なのかが焦点になります。

眼圧測定法

眼圧は眼内の圧力のことですが直接測定できないため角膜に空気や器具を当てて予測します。
主に3種類の眼圧測定法があります。

  • GAT(Goldmann applanation tonometry: ゴールドマン圧平眼圧計

眼科で緑内障にて必ず行う、スタンダードな方法

メリット
  • データが極めて多く存在し信頼性が高い
デメリット
  • 点眼麻酔が必要(直接角膜に当てて測定)
  • 角膜厚、角膜形状、涙液等に影響を受ける
 
角膜厚 薄い 520㎛が基準 厚い
形状 平坦 7.8㎜が基準 急峻
涙液 少ない   多い

極小軽量のチップを角膜に当てることで測定

メリット
  • 麻酔が不要
  • GAT によく相関
  • 仰臥位でも測定可能
  • 角膜形状は影響(ー)
デメリット
  • 角膜厚影響あり
  • 若年者では高値提示傾向
  • 自動眼圧計

主に健診で使用される、角膜に空気を当てて眼圧を予測

メリット
  • 麻酔が不要
  • 非接触デメリット
  • 不確実なことが多く、あくまで参考程度

緑内障は視神経、視野の所見で診断します。40 才過ぎたら年一回の眼科検診をおすすめします。

眼内レンズの使用割合

2024年7月30日

当院における2024/1~6月の眼内レンズ使用割合です。

単焦点 レンティス アイハンス 選定療養
総計 21.0% 56.4% 18.9% 3.7% 100.0%

全体の約79%が多焦点眼内レンズ、また約33%が乱視用レンズとなっています。

当院では使用眼内レンズ選択に際し、術後予想屈折値により

0D~-2D(軽い近視):
レンティスコンフォートもしくはアイハンス
-3D以上の近視    
単焦点眼内レンズ

を選択することを基本としています。

近視進行抑制Ⅱ

2024年5月20日

以前のこのコラムの「近視進行抑制について」(こちら)でも述べていますが、最近の知見をふまえてアップデートします。

近視について
  • 一般的に8~16歳で近視発症することが多い

    6、7歳で近視→将来強度近視になる可能性

  • 一年間で-0.75D以上の近視進行は進みすぎ
  • −6.0D以上の強度近視

    40歳以降、緑内障、黄斑変性・黄斑出血・網膜剝離・白内障などのリスク大
       → 予防する必要

  • 医学的に根拠のある進行抑制法は下記の通りです。
 習慣として行うもの
  1. 2時間以上、外で遊ぶ。(外出する)
  2. スマホ、勉強、読書などは30㎝以上離す。
  3. 20分間近くを見たら20秒5m先を見る。 続けて近くを見続けない。
 医師の指導のもとに行うもの
①低濃度(0.025%)アトロピン点眼(マイオピン®)→50%弱位の進行抑制
効果
[近視進行抑制効果と羞明自覚率・リバウンドとのバランスが良い0.025%を主とするようにいたしました]
②オルソケラトロジー →40%位の進行抑制効果
③遠近両用ソフトコンタクトレンズ→25%~40%位の進行抑制効果
レッドライト治療(Eyerising近視治療用機器)→77%位の進行抑制効果
・マイオピン®とオルソケラトロジーの併用
: 可
・マイオピンと遠近両用コンタクトレンズの併用
: 可
・レッドライト治療とマイオピン®の併用
: 不可
・レッドライト治療とオルソケラトロジーの併用
: 可
・レッドライト治療と遠近両用コンタクトレンズの併用
: 可

※まず進行抑制1・2・3を守ってみてください。

強度近視が心配な時は①~④を考えてみると良いと思います。

※マイオピン点眼・オルソケラトロジー・レッドライト治療をご希望の方は近視抑制外来にお越し下さい。担当医師の診察が必要となります。

閉塞隅角緑内障

2024年3月27日

〇正常な眼球では
[毛様体(蛇口)]
   ⇓
[隅角(下水口)]
という房水の流れが、バランス良くおこなわれることで眼圧が21未満に保たれます。

〇閉塞隅角緑内障では
[隅角が狭い、または閉塞]
   ⇓
[眼圧上昇]
   ⇓
[視野障害進行]
  という状態になります。

開放隅角緑内障より早く視野狭窄などの症状が進行
   ⇓
 白内障手術などの治療をなるべく早く行う

◎原因
 ・眼球が小さい(遠視眼)
 ・白内障
 ・毛様体前房偏位(plateau iris)
 ・硝子体圧上昇(悪性緑内障)
など

◎分類:Foster分類

 ①PACS (原発性閉塞隅角疑い)
隅角閉塞
→ 疑い
眼圧上昇、周辺虹彩前癒着
→ ない
緑内障(視野変化)
→ ない
白内障手術適応
→ ない
 ②PAC  (原発性閉塞隅角症)
隅角閉塞
→ ある
眼圧上昇、周辺虹彩前癒着
→ どちらかがある
緑内障(視野変化)
→ ない
白内障手術適応
→ ある
 ③PACG (原発閉塞隅角緑内障)
隅角閉塞
→ ある
眼圧上昇、周辺虹彩前癒着
→ ある
緑内障(視野変化)
→ ある
白内障手術適応
→ ある
◎治療:
白内障手術をすることで水晶体を除去し、隅角を広げることで房水の排出を多くして眼圧を下げます。
図 急性閉塞隅角緑内障(緑内障発作)
  • 突然眼圧が 70mmHg などに上昇し、視力低下、眼痛、頭痛、嘔吐、などの症状があらわれます。
  • 治療:虹彩レーザー、内服、点滴にて眼圧下降 → 早期に白内障手術
慢性閉塞隅角緑内障
  • 急性ほど眼圧の急な上昇はないものの眼圧上昇が続き、緑内障が進行する
  • 時に昼間眼圧正常→夕方から夜眼圧上昇のことがあります。
  • かすみ、頭痛、視力低下などの症状があります。
  • 治療:白内障手術

術後に十分な眼圧低下がなければ、トラベクレクトミー、PFM など緑内障手術

開放隅角緑内障

2024年2月20日

緑内障は眼圧が主な原因で視神経が不可逆的に障害され、失明に至る疾患です。緑内障には以下のような種類があります。

開放隅角緑内障:
房水の出口である隅角が正常眼と同じように開いている
閉塞隅角緑内障:
隅角が閉じている、もしくは狭い
続発性緑内障:
疾患(ブドウ膜炎、偽落屑症候群等)や、薬剤の副作用(ステロイド)などが原因
小児緑内障
開放隅角緑内障について
治療:
眼圧を下降させ、維持していきます。治療前の眼圧を測定、ベース眼圧とし、そこから20~30%下げるのを目標に治療を開始します。

まずは点眼の開始、もしくはSLT(選択的レーザー繊維柱帯形成術)の施行

• 点眼薬はまず1種類から始め、眼圧変動、視野障害進行度をチェックしていく

進行+ → 点眼追加:合剤が多く出ているため2つの点眼薬使用で薬剤4種類分の効果がある
進行++(もしくは薬剤の副作用などで使用不可) → 手術

手術療法には

• MIGS(低侵襲緑内障手術)
トラベクトーム、トラベクロトミー、iStent等の低侵襲の手術眼圧降下は15mmHg位まで
• トラベクレクトミー
眼圧降下は10mmHgくらいまで可だが合併症として術後出血・低眼圧・視力低下・術後乱視などがある
• Express
PFMのため今後は少なくなることが予想される
• PFM
詳細はこちら
• バルベルト
緑内障インプラント
 等があります。

 当院では

• MIGS → トラベクトーム:
iStentよりも眼圧下降大きく、フックによるトラベクロトミーよりも前房出血が遥かに少ないため、当院ではこれを選択しています。
• トラベクレクトミー:
眼圧 10mmHg 可
合併症として術後出血・低眼圧・視力低下・術後乱視等
• PFM:
トラベクレクトミーに比べて眼圧下降の効果は劣るようですが、手術侵襲が少なく術後出血・低眼圧・視力低下・術後乱視ははるかに少なく、濾過胞が厚いため術後の眼内炎も少なくなる等の利点が多い(これからの緑内障手術の主流となるかもしれません)
【 眼圧下降効果は トラベクレクトミー > PFM > MIGS 】
 を行っています。

眼瞼痙攣(がんけんけいれん)

2024年1月18日

「痙攣」といいますが、まぶたがピクピクすることではなく、まぶたが開けにくい、自分の意志とは逆に閉じてしまう、というような病態を指します。まぶしいなどドライアイに似た症状が出ることもあります。基本的には脳に起因する原因不明の疾患ですが、薬剤が原因となる場合もあります。

原因により以下に分類されます
  • 本態性→原因不明
  • 薬剤性:エチゾラム(「デパス」)や他の睡眠剤、安定剤などに起因するもの
眼瞼痙攣における脳の異常には以下の症状などがあります
  • 感覚系の異常として「まぶしい」など
  • 運動系の異常として、まぶたが開かない、瞬きがうまくできない、など
    *これらは結果として運転中の事故を誘発する可能性があります
  • 精神系の異常として「うつ状態」
主な治療法
  • 薬剤性なら原因と思われる薬剤の内服中止(エチゾラム(「デパス」)など)
  • ボトックス注射
  • 眼瞼下垂を伴う場合、手術療法
  • 羞明に対してサングラスの使用
  • ドライアイ様の症状に対してヒアルロン酸ナトリウム、人工涙液などの点眼

眼内レンズ使用割合(2023/07~12月)

2024年1月17日

当院における2023/7〜12月の眼内レンズ使用割合です。

  %    
単焦点 レンティス アイハンス 選定療養
総計 19.0% 61.5% 15.3% 4.3% 100.0%

全体の約81%が多焦点眼内レンズ、また約41%が乱視用レンズとなっています。
当院で採用している眼内レンズの、種類による見え方の違いの目安はおおよそ以下のようになります。

種類 30cm
50cm
70cm
5m
ハロー・
グレアの
少なさ
コント
ラスト
保険適応 単焦点 × ×
アイハンス × ×
レンティスコンフォート ×
選定療養 Clareon Vivity ×
Clareon PanOptix
テクニスシナジー ×

マイボーム腺機能不全(MGD)

2024年1月10日

涙の油分は眼瞼にあるマイボーム腺より分泌され涙の蒸発を防いで涙液層を安定させます。
マイボーム腺からの油分の分泌減少により、流涙、異物感、乾燥、痛み、かゆみ、メヤニ等の症状が、特に起床時に起こります。

主な原因
  • 加齢
  • ホルモンバランスの崩れ(閉経後、生理後半)
  • 食事(肉食)
  • 感染
主な治療
  • シャンプーなど眼瞼洗浄、マッサージ
  • 温罨法
  • 抗生剤の内服、点眼(炎症ある時)
  • ドライアイある時にはドライアイ治療
  • サプリメント(オメガ3系脂肪酸[DHA、EPA])、魚類(オメガ3系脂肪酸を豊富に含む)の摂取
類縁疾患
  • 眼瞼炎
    • 前部:
      まつ毛の炎症(細菌、カビ、ダニなどが原因→マイボシャンプーtea tree1.0が効果有)
    • 後部:
      マイボーム腺より後部の炎症:マイボーム腺炎、SLK(上輪部角結膜炎 )、LWE(lid-wiper-epitheliopathy)
    • マイボーム腺炎:MGD等によりマイボーム腺に炎症を起こす。
    • 若年者→フリクテン:表面に新生血管を伴い、傷、炎症を起こす。
    • 高齢者→角膜炎
    治療は抗生剤の内服や点眼になります。
  • 霰粒腫:MGDがベースにあって起こり、細菌感染+慢性炎症によってMGDを悪化させる
    治療は抗生剤の点眼や内服、ステロイドの点眼、温罨法、マイボシャンプーの使用、切開(小手術)、ステロイド注射などがあります。

ドライアイ

2023年11月10日

「ドライアイ」は涙の量、質が低下、蒸発量が増えることで起こる角結膜疾患です。

主な症状
  • 目が痛い
  • 目がショボショボ・ゴロゴロする
  • 充血する
  • 目が疲れる、見えにくい
  • 目を開いているのがつらい
主な原因
  • 生活習慣( スマホ・パソコンの長時間使用等)
  • 加齢
  • マイボーム腺機能不全(MGD)
  • アレルギー
  • コンタクトレンズの使用
  • 結膜弛緩症
  • 眼瞼痙攣
  • 点眼薬に含まれるBAK(塩化ベンザルコニウム)等の 防腐剤成分
  • sjogren syndrome(シェーグレン症候群)
  • 白内障などの手術

上記の原因がいくつかが重なることも多いです。

治療法は原因によって選択され、

  • 涙の改善目的の点眼薬の使用
      量の改善:ヒアルロン酸ナトリウム、ジクアホソルナトリウム、人工涙液
      質の改善:レバミピド、血清点眼
      炎症消退:ステロイド、レバミピド
  • 涙点プラグ(涙をためる)
  • 抗アレルギー剤
  • 点眼の中止(点眼薬の成分(BAK等)が原因の場合)
  • 温罨法、専用のシャンプーの使用(MGDの場合)
  • 手術による治療(結膜弛緩症)
  • 眼瞼痙攣では
      内服薬の中止(エチゾラム(「デパス」)等睡眠薬、抗不安薬など)
      ボトックスの注射、サングラスの使用等
      眼瞼痙攣による下垂に対して、手術

などがあります。

目が疲れる、ショボショボする、などの症状でお困りの方はご相談ください。

2023年9月8日

眼内レンズ使用割合(2023/1〜6月)
当院における2023/1〜6月の眼内レンズ使用割合です。

保険適応眼内レンズ 自費レンズ
単焦点 レンティス
コンフォート
アイハンス 選定療養
総計 30.2% 60.5% 4.7% 4.6% 100%


全体の約70%が多焦点眼内レンズ、また約35%が乱視用となっています。術後の日常生活をメガネ無しで過ごせるように、と考えて眼内レンズの選択に臨んできた結果が現れているものと思います。

2023年7月27日

ソフトコンタクトレンズ素材

ソフトコンタクトレンズの素材として、最初はHEMAが使用されました。HEMA製のコンタクトレンズは素材に含まれる水分から角膜に酸素を供給する構造のため、必要な酸素量を確保するために素材の含水率を引き上げたり、レンズを薄くするなどしましたが、含水率を高くすればするほど、薄くすればするほどレンズ形状が変形しやすくなり、またレンズそのものに水分が奪われ、乾きを感じやすくなったり(盗涙現象)しました。それでも角膜に必要十分な酸素量の確保は難しい状況でした。
次にシリコン系の素材が注目されました。シリコン系素材は水を介さなくても素材自体が直接酸素を通すため酸素透過係数(Dk値)が高い反面、硬く、疎水性で脂肪の汚れ等が付着しやすいという欠点がありました。
シリコン系素材と従来の素材HEMAを重合させたものがシリコーンハイドロゲルです。開発当初はシリコンの含有率が高く低含水率で、Dk値は100を超えましたが硬めで、そのための眼障害が生じたりしました。
素材のDk値を80程度にしても眼への影響は100以上とあまり変わらないとの事もあり、現在はシリコンの含有率を下げて含水率を上げ、レンズの厚みを薄くして、Dk値は若干さがるものの柔らかい、眼に優しい素材へと変化してきています。また疎水性の欠点を補うために、レンズに高分子化合物を含ませたり、保存液に親水性を向上させる成分を含ませたりして装用感を改善させています。

グラフ
2weekのグラフはこちら
非認可のカラーコンタクトや素材が低含水率HEMAなどのコンタクトレンズは眼障害を起こしやすいので避けたいものです。

2023年7月6日

加齢性黄斑変性(AMD)、糖尿病黄斑浮腫(DME)に対するベオビュ®硝子体内注射について

ベオビュ®は加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫によって生じる網膜の出血やむくみを強く抑える薬として知られています。他の薬剤で治療をしている場合、何回も治療が必要になったり、長く治療をしていると薬剤の効果が落ちてくる場合がありますが、ベオビュ®に切り替えることで、治療の間隔を延ばしたり、落ち着いた状態に戻すことが可能です(ただし全ての症例にあてはまるとは限りません)。 
今まで硝子体内注射をしたことがない加齢黄斑変性・糖尿病黄斑浮腫の患者様でも視力維持・改善が可能となります。ただし、継続的な治療や経過観察が必要になりますので、定期的な通院は必要です。
デメリットとしては眼内炎症(症状としては飛蚊症や視力低下など)が数パーセントに出現することが知られています。眼内炎症がでた場合でも多くは回復しますが、まれに視力低下が残ります。心配なことがあれば医師にお尋ねください。
加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫は早期発見・早期治療がとても重要です。黄斑外来(火曜午後)にて対応しておりますので、是非ご相談ください。

2023年6月29日

円錐角膜

円錐角膜は疾患数としては少ないのですが、進行し高度化するとハードコンタクトレンズ、角膜移植が必要となります。
まだ矯正視力1.0~1.2が出る小中学生(特に学校検診)のうちに発見し、進行があるようならばクロスリンキングなどを施行して、将来違和感の強いハードコンタクトレンズの使用や角膜移植が必要、といった状況にならないよう早期発見に努めています。

2023年6月23日

近視矯正手術

近視矯正眼内レンズは現在、虹彩支持型と後房レンズ型があり、厚労省が認可しているのは後房型ICLレンズのみです。当院で使用しているICLはその認可されているものの中でもより安全性が高いと言われている、レンズの真ん中に小さな穴が開いているタイプのICLレンズです。
ICL挿入術後には白内障、緑内障、角膜内皮障害などの合併症の発生リスクが(わずかながらも)上昇することが知られています。レンズ中央にごく小さな穴が開いているレンズを使用することでこれらのリスクを低減させられることが報告されています。
当院では安全性が高い(穴が開いている)厚労省認可レンズであるSTAAR SURGICAL社製VICM5と同社製VICM0を使用し、-3.0Dから-18.0Dまでの近視(近視性乱視)の方に対応しています。

ご希望の方はまず一般外来受診をお願いします。

2023年6月19日

白内障手術における選定療養について

「選定療養」とは療養を受けたときに、療養全体にかかる費用のうち基礎的部分については保険給付をし、特別料金部分については全額自己負担とすることによって患者の選択の幅を広げようとするものです。白内障手術においては眼内レンズに関わる部分で選定療養とすることが認められています。自己負担額はレンズの種類によって変わります。
→選定療養について

当院では選定療養眼内レンズは『クラレオンパンオプティクス』と『テクニスシナジー』(どちらも乱視用を含む)が選択可能です。どちらも遠方から近方まで眼鏡を掛けずに生活が出来る可能性が高いレンズです。 ハロー、グレアは『クラレオンパンオプティクス』が少なく、近方視力は『テクニスシナジー』がより良いと言われています。
選定療養眼内レンズは他にもありますがこの2種類がバランスが良いと思われ、例えば『シンフォニー』(ハロー、グレアが少ないが近方視力が弱い)を希望される方には、健康保険の範囲内で使える『レンティスコンフォート』や『アイハンス』が同等のパーフォーマンスが期待できますのでこちらをお勧めしています。

2023年6月5日

斜視、弱視

当院では、視力の測定が困難な生後6ヶ月の乳児以上からスポットビジョンスクリーナー等を使用して屈折力の早期スクリーニングを行い、屈折異常の早期発見、治療に努めています。
→小児眼科外来:月曜日(午前・午後):畑先生

2023年5月18日

近視化進行抑制について

近視が高度になると網脈絡膜萎縮をきたし視力が低下することがあります。この視力低下には現在有効な治療法がありません。他にも強度近視に伴う網膜剥離、緑内障、近視性視神経症などをきたすことがあります。
一方で昨今のPC、スマホなどのIT機器の社会への浸透に伴い幼少期から近見視する時間が増加、それが近視人口の増加につながっている、との見方があります。実際、東アジア圏では近視人口増加傾向が著しく、国家単位での問題と認識されつつあります。

当院では近視化進行抑制のため、日常生活の指導、点眼(マイオピン)、オルソケラトロジー等にて近視進行の予防をはかっています。

日常生活の注意点として
・近見時間を短くする
・太陽光を浴びる
などが近視化抑制効果があると言われています。

他に、近視化進行抑制法としてエビデンスがあるとされ、また日本国内で利用可能な治療法には
①低濃度アトロピン点眼:夜寝る前に一日一回点眼します(自費診療となります)
②オルソケラトロジー:夜寝ている間だけ専用のハードコンタクトレンズを装用します
③多焦点ソフトコンタクトレンズ:特殊なデザインのソフトコンタクトレンズを使用します。
などがあります。

この内①②③の治療は当院でも可能です。近視化抑制外来(月〜金)を予約してください。
それぞれの詳細は別項で述べたいと思います。

2023年5月9日

疾患の早期発見、治療についての取り組み

40歳を過ぎると失明の原因である緑内障、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、網膜剥離等が徐々に増加していきます。
当院では40歳以上の方にオプトス、OCTのチェックを必ず行い(希望のない方は行いません)早期発見に努めています。なお、上述の検査は保険請求しないため患者様の負担金が増えることはありません。

2023年4月27日

乱視用眼内レンズ

健康保険適応眼内レンズによる白内障手術において、術後なるべく眼鏡無しで日常を過ごせるようにするのが当院の目標です。その目標のためにレンティスコンフォートが第一選択になりますが、同時に乱視をしっかり補正することが重要になります。当院では約40パーセントの方に乱視用眼内レンズを使用しています。使用レンズはレンティスコンフォート、アイハンスのいずれかになります。
近年、ゲリラ豪雨など至急の行動を要する天災等が増えております。万一そうした状況となったとしても、眼鏡無しでも安全に避難可能となりますよう頑張りたいと思います。

2023年4月12日

舌下免疫療法 2023年5月現在、薬剤の供給制限により新規患者の登録が中断となっています。再開可能時期は未定です。

スギ花粉やダニのアレルギーに対する治療法の一つに、「舌下免疫療法」というものがあります。
使用するのは、アレルゲン(この場合はスギ花粉やダニ)を原料としたエキスから作られたお薬です。これを少量から服用することで体を慣らしアレルギー症状を和らげます。
治療開始前にアレルギーの原因物質の確定診断(血液検査)と治療継続可能かどうかの確認が必要です。また服用は一日一回ですが、開始したらアレルギー症状の有無に関わらず、毎日、長期間に渡って継続する必要があります。(勝手な中断や再開は危険な状態となる場合もあります)
開始後の受診は月に一度で、3年間以上の継続が推奨されています。なお、医学的観点から治療の開始時期に制限があり、アレルギー症状の強くないとき(スギ花粉であれば5月中旬すぎ)でないと始められません。

当院でも眼アレルギー症状に対する舌下免疫療法ができます。希望される方は専門外来を予約してください。

2023年3月28日

ダブルチェック

眼底写真、OCT、角膜形状検査、緑内障視野検査、白内障の眼内レンズ選択等は必ず2人の医師でダブルチェック行い、見逃しが無いようにしています。
・眼底写真、OCT等の検査後、必ず別の医師が再度チェックし、異常所見があれば早めに再来をお願いしています。
・視野検査後、ダブルチェックを必ず行い進行の有無、今後の方針を検討します。
・眼内レンズの度数、乱視の有無、軸の決定、レンズの種類の選択等、必ず2人以上の医師でチェックして決定しています。

2023年3月17日

硝子体手術

黄斑上膜、黄斑円孔、網膜剥離、硝子体出血等、日帰り手術で行っています。以前は糖尿病や静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫は積極的に手術を行いましたが、今は抗VEGF薬の認可により薬剤治療が第一選択となっています。当院では聖マリアンナ医科大学元教授、高木先生が網膜硝子体専門外来を行っております。手術希望の方はまず一般外来受診をお願いします。

2023年3月8日

緑内障について

失明原因の第1位です。
40歳以上の5%の方が緑内障と言われています。40歳以上の方には1年1回の検診をお勧めします。
主に閉塞隅角緑内障、開放隅角緑内障があり、閉塞隅角緑内障には早期の白内障手術が有効です。
開放隅角緑内障は眼圧にもよりますが、急に悪化することは少なく点眼治療で眼圧を下げます。まず1種類から始め、視野進行があれば点眼を追加します。1本の点眼瓶に2種類の薬が配合されたもの(合剤)を使い、2本(4種類)まで使いそれでも悪化する場合、手術となります。どのような手術をするか、点眼でいくか、は専門の知識経験が必要です。当院では専門外来にて方針を決めています。

2023年2月28日

多焦点眼内レンズについてもう少し詳しく

多焦点の度数はaddで表します
遠方(5m)1.2が出るように合わせるとadd+1なら1m(テレビ)が1.2見え、add+2は50cm(パソコン)が1.2、add+3なら約30cm(読書)が1.2見える、ということです。ただ実生活では1.2見える必要はなく0.6以上あればメガネなしで可能と言われています。

・単焦点レンズ add±0
遠方1.2に合わせるとそれより近くはぼやけますが1〜2mは0.6以上出るためテレビは裸眼で見られます。70cm(料理をする)、50cm(パソコン)、30cm(読書)はメガネが必要です。

・アイハンス add+0.5
2mまで1.2可能、70cmより近くは0.6以下なのでメガネが必要。(単焦点レンズと大きな差はないようです)

・レンティスコンフォート add+1.5
70cmまで1.2可能、50cmまで0.6以上なのでパソコンはメガネなしで可能。
片側を遠く(±0)に、片側を1-2m(-0.5から-0.75)に合わせると、遠方から30cmまでメガネなしも可能。

・選定医療レンズ add+3
30cmまで1.2可能。読書もメガネ無し可能。
ただし加入度数が強くなる(近くもメガネ無し)ほどハロー、グレアが強くなりコントラストが低下します。

以上を考慮してレンズ選択をしています。

2023年2月20日

抗VEGF抗体硝子体内注射について
当院ではアイリーア、ルセンティス、ラニビズマブBS、ベオビュー、バビースモの5種類の投与が可能です。
第一選択はアイリーアですが、全身状態 負担金額の軽減を考慮してルセンティス、ラニビズマブBS等を第一選択にすることもあります。アイリーア等で効き目が悪い、何度か投与していて徐々に効果がなくなるなどの時は黄斑専門外来(井上先生)の診察にてベオビュー、バビースモ等の投与を検討しています。

2023年2月6日

コロナ感染症続く中スタッフ感染等で一時的に人手不足になることがありご迷惑をおかけしてます。今後も感染対策を徹底していきたいと思います。

外来は一般と専門外来があります。
一般外来は予約、予約外どちらでも受診できます。予約の方の診察の後、予約外の方の診察になります。予約はwebもしくは電話でお願いします。
専門外来は緑内障、網膜硝子体(手術)は一般外来受診後、予約になります。黄斑(井上先生)小児(畑先生)角膜(清水先生)はwebもしくは電話で予約が可能です。

手術は斜視以外全て対応しており、全て日帰りで行っています。

翼状片、白内障手術が特に増えています。翼状片は久里浜地区が海に近いのが関係あるかもしれません。

白内障手術は機械の進歩などで、より安全に出来るようになりました。眼内レンズがここ数年進歩し健康保険適応レンズ、選定医療レンズ(レンズ代自費)など多数のレンズを選べるようになりました。
健康保険適応レンズは近視、遠視、乱視に加え多焦点も選択出来るようになり(どのレンズも負担額は同じ)ほぼオーダーメードに近い形でレンズを選択出来るようになりました。両眼手術だと、健康保険適応多焦点レンズは+2D加入レンズで、ピントを遠方に合わせるとパソコンが、1メートルに合わせると新聞がメガネなしでほぼ見ることができます。遠方から新聞までメガネなしでみたい方は選定医療で+3D加入レンズを選択されるようです。当院では6~7割の方が健康保険適応多焦点レンズを選択されています。

これからも満足度の高い治療を目指して努力してまいります。